全山熊笹に覆われ、ふくよかな感じのする赤坂山。若狭、越前、近江の三国を分ける三国山。そして、両山を結ぶ稜線上には、花崗岩が風化し、ゴツゴツした荒々しい表情を見せる明王の禿。これらを結ぶ変化に富んだコースは、女性や家族連れに特に人気が高く、シーズン中には多くの登山客でにぎわっている。特に、赤坂山から明王の禿にかけての稜線上は、アルペン的な趣があり、是非一度は訪れてほしい山である。
これらの山へ福井県側から登るルートとしては、
①敦賀から黒河林道を黒河峠まで行き、そこから三国山、赤坂山を往復するコース
(2020.11現在、敦賀からの黒河林道は、途中で通行止めのため、マキノ側からマキノ林道でアプローチした方が良い。こちらも途中で通行止めであるが、峠までは近い)
②美浜町松屋から折戸谷林道に入り、粟柄越経由で赤坂山に至るコース
がある。
この内、①のコースがポピュラーであり、家族連れのハイキングコースとしても楽しめるので、本書ではメインコースとして紹介する。ただし、黒河林道は、荒れていて、通過が難しいこともあるので、事前に道路状況を確認しておいた方が良い。(2020.11現在、途中で通行止め)
また、②のコースについては、林道が奥まで入っており登山コースが短いが、途中の道はよく整備されており、美しい林の中、静かな山歩きを楽しめるコースである。ただし、折戸谷林道は、荒れていることがあるので、注意が必要である。
また、粟柄越から大谷山にかけての縦走路が、整備されているので、このコースも紹介したい。縦走路は、ススキ(以前あった笹は、すっかりなくなっている)に覆われたとても展望の良い道なので、是非一度訪れてほしいコースであるが、大谷山からの下山地点にあらかじめ車をまわしておく等の工夫が必要である。
なお、この他、折戸谷林道の赤坂山登山口からさらに林道を進んだ地点より、送電線巡視路を使って、三国山の北方稜線に出るコースもある。一般的ではないので、参考記録として紹介するが、このコースを利用すると、福井県側から、赤坂山、三国山の周回コースを組むことが出来る。
②のコースで通過する粟柄越は、古い峠道の一つである。江戸時代、若狭には佐柿、熊川、吉坂、粟柄(あわがら)の4カ所に関所が設けられていた。その中の一つ粟柄の集落はもう存在しないが、粟柄谷、粟柄越の地名だけは今なお残っている。さて、若狭から近江に越える峠道は別名赤坂越とも呼ばれ、東の西近江路(現在の国道161号線)と、西の若狭街道(国道303号線)の大きな街道に挟まれ、間道的な要素が強い。現在の峠道は、昔の峠道が割合良く保存されており、原生林の中の古い峠道の趣を楽しむことができる。
なお、粟柄越、黒河峠とも福井県と滋賀県を結ぶ峠であり、当然のことながら滋賀県側からもアプローチ可能であり、むしろ滋賀県側の方がアプローチしやすい。
①黒河峠から三国山、赤坂山へ ■対象:家族向けハイキングコース
2020.11現在、黒河林道は、途中で通行止めなので、登山口までは、マキノ側からアプローチしてほしい。
『敦賀市内から山集落へ車で向かう。山集落を過ぎると、黒河林道となり、舗装が切れる。途中までは比較的道は良いが、黒河峠に近付くにつれ道は悪くなる。道路の凹凸が大きくなり、普通乗用車では時々車の底をする。凹凸を良く見て、慎重に車を進めてほしい。なお、峠までの途中、何本か林道を分けるが、本流に沿って車を進める。道の勾配がきつくなり、やがて黒河峠に着く。峠には駐車できる場所があり、そこから林道を30m程進んだ所が登山口である。登山口には、大きな標識と入山カードを入れるポストが設置されており、その周辺でも車は何台か止められる。なお、敦賀から登山口まで13㎞程であるが、道が悪いので、1時間近くみておいた方が良い。』
登山口から赤坂山までは、赤坂山歩道として良く整備されておりおり、快適な登山が楽しめる。登山口からは、尾根の左側をトラバースするように、熊笹と雑木林の中を進む。約5分で林道に出る。その林道を100m程左方向に進むと、右側に再び登山口の標識がある。所々階段状に作られたしっかりとした道を進む。左手に琵琶湖が見えるようになり、30分程で展望台のような所に出る。琵琶湖方面の眺めが素晴らしく、ひと休みするのも良かろう。さらに登り続けるが、道が下り出すとすぐにテントが2張り位張れる広場に出る。川が流れており、先ほどの展望台からは25分程であるが、ここも絶好の休憩場所である。
この広場を過ぎると、すぐに三国山への登山道の分岐に出る。登りの元気な内に三国山を往復してこよう。道はやや細くなり、両側から木々が覆い被さってくるが、道はしっかりしている。やがて階段状の道となり、急登をすればすぐに三国山山頂である。山頂は、こぢんまりとしており、三等三角点がある。周りの木が繁っており、山頂からの展望はあまり良くないが、伊吹山などが望まれる。なお、分岐から三国山往復は、頂上での休憩を入れても40分程度の道のりである。
分岐に戻ったら、赤坂山を目指して進もう。分岐からは、少し下った後、水平な道となるが、ブナ林の中の気持ち良い道である。しばらくすると沢を横切り、すぐに明王の禿が目の前に迫る場所に出る。ここから少しの登りで、明王の禿に着く。三国山への分岐からここまで約25分の道のりである。ここは、花崗岩が風化し崩れたガレ場で、残った岩が峻立しており、アルペンムードを感じさせる所である。なお、左側には危険の標識と共にロープが張られており、近づかないよう注意したい。
明王の禿から少し下ると、峠のような広場に出る。この辺りも気持ちの良い所である。ここからさらに少し下ると、いよいよ赤坂山への登りとなる。熊笹と低木の間を登って行くが、森林限界を越えた高山の趣がある。明王の禿から約20分で赤坂山山頂に着く。山頂は、草原状の広い場所で、360度の大パノラマが楽しめる。琵琶湖とその周辺の町や山々はもちろんのこと、若狭の山々や日本海も見渡せる。
頂上での展望を十分楽しんだら下山することとしよう。帰りは、もと来た道を黒河峠まで引き返すことになるが、峠まで約1時間15分の道のりである。
黒河峠からは、黒河林道を通って敦賀へ戻る他、帰る方角によっては、滋賀県のマキノ町に向かうルートもある。マキノ町の白谷地区までは、約5㎞程の距離で、初めは砂利道であるが、途中から舗装道路となる。峠の直下で道が荒れているが、敦賀側に比べれば、距離も短く、道も良いので、車であれば15分ほどで白谷集落に着く。徒歩でも1時間ほどの距離であるので、縦走後の下山路としても問題ない。なお、白谷集落には、老人憩いの家・白谷温泉もあり、ひと風呂浴びて帰るのも良いだろう。
■コースタイム
黒河峠→55分(40分)→三国山への分岐(三国山往復40分)→25分(20分)→明王の禿→20分(15分)→赤坂山
( )内は、逆コースのコースタイム
②粟柄越経由で赤坂山へ ■対象:初級コース
国道27号線を小浜から敦賀に向かって車を走らせ、JR美浜駅前の信号の次の「役場口」の信号を右折する。この道は、基幹農道で道幅も広く走りやすいので、この道を通って新庄へ向かう。なお、もうひとつ先の「河原市」の信号を右折し、耳川沿いに遡る道もある。
「役場口」の信号を右折し、10分弱、車を走らせると、前方に変電所の鉄塔が見えてくる。ゲート手前を曲がり、耳川を渡ると新庄地区に入り、耳川沿いに進んで来た道に合流する。浅ヶ瀬という集落を過ぎて松屋集落に近づくと、正面に渓流の里が見えてくる。松屋集落で道は二つに分かれるが、左の粟柄谷林道へ入る。道幅は狭くなるが、アスファルト舗装はされている。道は右手に谷を見ながら進み、しばらく行くと左手に崖が迫ってくる。それが途切れると、左手に小さな谷がありその橋を渡ると、左手に林道が延びている。ここを過ぎると、すぐ同じように左手に谷があり、橋を渡ると二つ目の林道が東に延びている。松屋の集落から2km、車で4~5分といったところである。道のそばには赤坂山の標識があり、この林道が折戸谷線で、この道に入る。
この林道は未舗装のため凸凹がかなりあるので、車はスピードを落とした方が良い。しばらく走ると、赤坂山の登山口が右側に現れるが、ここには、トイレが設置されている。車は、トイレの横か、登山口のすぐ先の右手の窪地に停めると良い。
登山口の階段を過ぎると、なだらかな杉林となるが、それもあまり長く続かず広葉樹の林の尾根を蛇行しながらゆっくり登って行く。背後では、まだ折戸谷の水音が聞こえているが、それもやがて鳥の声になる。初秋であれば、足下のトチの実を拾いながら登るのもまた楽しい。ゆっくり歩いて約40分すると、正面に沢の音が聞こえてくる。小さな沢を渡り、今度は左手の尾根に取り付く。
やがて、右手に鉄塔を見ながら小さな沢を一つ越え、右手の尾根に取り付く。低い梢のアーケードの下、深くえぐられた道をひたすら登って行くと、送電線巡視路の分岐がある。この分岐を直進し、緩やかに登って行くと、前方が開け、粟柄越に着く。この峠までは、登山口から約1時間10分の道のりである。なお、先程の分岐を左に進めば、左手の上に大きな鉄塔を仰いで、粟柄越と赤坂山山頂を結ぶ稜線に出る。粟柄越はススキの中の、広々とした所である。ここから東に下れば、マキノスキー場に行くことができ、約2時間で北マキノバス停に着く。
さて、赤坂山へは、峠を左折し進む。すぐに高さ約2.5mの巨岩があり、その大岩の中をくりぬいて、三面の顔を持つ石仏が安置されている。さらに、琵琶湖を背にして進むこと10分程で、展望表示板のある赤坂山の頂上に着く。頂上からは360度の展望を楽しむことができる。東西に国境稜線が延び、南には大きな琵琶湖と湖の向こう側の山々、伊吹山、また北には福井県の何重にも重なる山々、さらには、運が良ければ白山、中部山岳の山々を見ることができる。
■コースタイム
登山口→40分(30分)→水場→30分(20分)→粟柄越→10分(10分)→赤坂山
( )内は、逆コースのコースタイム
③赤坂山から大谷山へ ■対象:中級コース
粟柄越までは、前項を参考に登る。ここには標識があり、マキノスキー場方面と、大谷山方面と分岐する。大谷山方面は、ススキ原の中に付けられた道をゆっくりと登っていく。この先、道ははっきりとしており、ススキの中に、所々柘植の低い木が混じっている。以前あった笹はすっかりなくなっている。
粟柄越から10分強で、小ピークに着く。ここから下っていくと、一旦潅木帯に入るが、すぐにススキ原となる。この先も所々林に入るが、ほとんどがススキ原である。ススキの背も低く、道の部分は良く刈り払われているので快適に歩くことができる。左手に琵琶湖そしてその先には伊吹山があり、また右手には若狭の山々と日本海が広がる。展望抜群のなだらかなススキ原の尾根道が大谷山まで続いている。
やがて、次のピーク(P841)の肩に着き、そこを過ぎると潅木の中を急に下りだす。鞍部からは再びススキ原となり、次の小さなピークを越えると、潅木帯に入る。ここを過ぎるとすぐに道はT字路に突き当たる。ここはP859からの尾根との合流点で、左へ進む。逆方向から来た場合、直進し易いので注意が必要であるが、しっかりとした標識が設置されている。この先、地形が少し複雑なので、道を外さないように慎重に進むと、寒風に着く。ここには、マキノ高原から登山道が上がってきており、琵琶湖方面の展望がすこぶる良い。
寒風からは、ススキ原の中を道は下って行き、やがて大谷山手前の最後の鞍部に着く。ススキ原の中に切り開かれた気持ちの良い尾根道をゆっくりと登っていく。ふり返ればススキ原の中に歩いてきた道がくっきりと残っている。また、右手には大御影山方面の長い山稜が広がっている。最後の登りを登りきると、813.7mの大谷山山頂に着く。赤坂山から普通に歩いて2時間、ゆっくり歩いても2時間30分見ておけば十分であろう。頂上は、ちょっとした広場になっており、360度さえぎるもののない展望が楽しめる。
ここからは、粟柄谷林道に向かって下ることになるが、そのコースについては、大谷山の項を参照されたい。
■コースタイム
折戸谷林道・赤坂山登山口→1時間10分(50分)→赤坂山→10分→粟柄越→30分→P841の肩→30分→寒風→45分→大谷山→1時間(1時間30分)→粟柄谷・大谷山登山口
( )内は、逆コースのコースタイム
④折戸谷林道から三国山(参考記録) ■対象:上級コース
美浜町新庄から、粟柄林道、折戸谷林道を経て、赤坂山(粟柄越)登山口に向かう。右手の登山口を過ぎて、さらに車を走らせると、左手に大きな空き地がある。この先もジープタイプの車であれば進むことができるが、道が悪くなるので、ここに駐車した方が良い。この先、登山口まで、歩いても15分程である。
登山口は、林道右手にあり、送電線巡視路となっている。プラスチックの階段の付けられた、谷沿いの道を登っていくと、トチの巨木に出会う。この先で、道は二手に分かれるが、右は、すぐそばの送電線鉄塔に向かう道である。左手に入り、小さな尾根を越え、沢沿いに進む。対岸には、石楠花の木がある。すぐに、橋の架かった沢を渡り、ここから左手の尾根に向かってジグザグに登っていく。
やがて尾根に出るが、ここに最初の鉄塔がある。この先、敦賀市と美浜町の境の稜線まで、送電線に沿って登っていく。尾根は、急であるが、右に、左に蛇行するように道が付けられており、所々にドウダンツツジが見られる。しばらくすると、道が二股となっている。直進する道は、沢を渡り、その先の鉄塔に向かっている。ここは、ちょっと注意すべき地点で、左手に入る道を登る。すぐに、ブナの大きな木があり、2番目の鉄塔に着く。広く刈り払われており、見晴らしが良い。
ここからも、尾根に沿って登っていくが、大きな石が現れると、市町の分界の稜線は、すぐである。稜線に登りきった所にも鉄塔があり、左は野坂岳に続く稜線、左手が三国山に続く稜線である。正面には、黒河林道越しに乗鞍岳方面に続く稜線も見える。
右手方向の幅広い道を進むと、3番目の鉄塔があり、その先で巡視路は終わる。しかしながら、その先もしっかりとした道が続いており、美しい林に囲まれ、気持ちの良い稜線歩きが楽しめる。まず、目に付くのが、ドウダンツツジ。花の季節には、サラサドウダン、ベニドウダンが咲き誇り、ドウダン街道の様である。さらに、ブナの林や、カエデの林もあり、歩いていても飽きない。正面に三国山の姿が見えると、すぐに三国山山頂に着く。
■コースタイム
折戸谷林道・登山口→30分(20分)→最初の鉄塔→30分(20分)→2番目の鉄塔→15分(10分)→市町境稜線→40分(30分)→赤坂山