美浜町新庄の南、滋賀県との県境に位置するこの山は、嶺南地方の最高峰ながら、何故か国土地理院の地図には山名が記載されておらず、三角点も三等である。登ってみれば、確かに山頂は尾根が盛り上がっている程度の場所で、上記のような扱いになったこともうなずける。以前は、三角点の周囲だけが切り開かれた狭い山頂であったが、最近周囲が伐採され、少し展望も得られるようになった。
この山に続く尾根は、過去には若狭・能登野と近江・酒波を結ぶ近江坂と呼ばれる峠道として利用されていた所で、現在も深くえぐられた昔の馬道が残っている。また、道の両側には広葉樹の美しい林があり、大御影山の西側の尾根には、広大なブナ林がある。従って、この山はピークを目指すというより、昔の近江坂の歴史を感じながら、気持ちの良い林に囲まれた尾根道を楽しむコースである。
大御影山に至る最も簡単なルートは、美浜町新庄から粟柄谷林道を経由して登るルートで、林道の県境に車を止めれば、その先1時間ほどの林道歩きを含めて2時間強で山頂に立つことができる。このルートは途中迷うような所もなく、ハイキング気分で行ける。登山口からは、ビラテスト今津からの道と合流するので、登山口からは、歩く人の数も多い。なお、粟柄谷林道は通行止めになることが多いので、事前に美浜町役場に確認しておいた方が良い。また、一部道が整備されていない部分もあるが、この林道の県境から直接、大御影山に向かうコースもある。
この他、美浜町新庄の能登又谷からのルート(大日を経て行くコース、白谷コース、能登又谷林道終点からのコース)や若狭町の能登野からのルートなどがある。
本書では、粟柄谷林道からのルートをメインルートとして紹介する。サブルートとしては、最近整備された能登又谷林道終点より、大御影山に至るルートと、白谷コースを紹介する。また、近江坂を縦走する人のために、大御影山から大日を経て、新庄へ下山するルートを紹介する。このルートには美しいブナ林が何ヶ所かあり、是非一度は訪れてみたい所である。また、これらのサブルートは、道がわかりにくい所もあるので、山慣れた人と必ず同行してほしい。
さらに、若狭町の能登野から近江坂を歩くルートを参考記録の扱いで、紹介する。
なお、粟柄林道の県境から直接、大御影山に向かうコースと、能登越から大日に向かって、県境稜線上を歩くコースは、県境稜線の旅に紹介しているので、そちらを参照されたい。(2017.06.18一部修正)
①粟柄林道から大御影山へ ■対象:初級コース
小浜方面から国道27号線を敦賀方面に向かい、美浜駅前の信号の次の「役場口」の信号を右折し、渓流の里方面に向かう。この道は基幹農道となっており、約6km先の嶺南変電所の所で橋を渡り、河原市から新庄に向かう道に合流する。やがて右手に渓流の里の入り口があり、それを見送ると最後の集落である松屋に着く。ここで道が二俣に分かれるが、ここは粟柄谷に向けて左に進む。(右は能登又谷に入る林道である。)道は舗装されており、谷沿いの道を登って行くと、途中左手に折戸谷の分岐があり、ここには「赤坂山」の看板がある。さらに進むと、道は曲がりくねってきて、谷から分かれるようになる。国道から約50分で県境に着くが、県境まで舗装道路が続いている。この手前右手には、休憩所があり、その横の広場もしくは、その先には充分な駐車スペースがあるので、ここに駐車する。ここまで来ると海抜600m近くなっている。
歩き始めてすぐに県境となる。ここで左に別の林道を分けるが、そのまま直進する。県境からは舗装が切れ、雨水に洗われて大変な悪路となる。車で入るのは不可能であり、県境から登山口まで約3kmの林道歩きとなる。緩やかだが、ずっと登りの続く林道を谷に平行して進む。左手に琵琶湖方面が見えるようになった頃、道は谷から分かれ、右方向にUターンする。もうしばらく進むと道は尾根の切り通し地点を通過するが、そこから約30m進んだ地点の右手に登山口がある。登山口には「大御影山」の看板が掛かっている。
登山口から少し登ると、尾根に出て、深くえぐられた昔の峠道に出会う。この道は先ほどの切り通し地点から続いているようで、林道工事で山が削られたため、登山口が変えられたようである。 尾根上に付けられた道の両側は、美しい広葉樹の林で囲まれており、大変気持ちが良い。深くえぐられた道は昔の馬道の名残りを充分残している。この道は、良く踏まれており、何ら迷うような所はない。ブナなどの林の中、落ち葉のじゅうたんを踏みしめて登って行くと、1時間程で、左前方に反射板が見えてくる。反射板の手前右手に切り開かれた所が大御影山山頂である。山頂は、以前は三角点の周囲のみが切り開かれていたが、現在は、広く切り開かれているので、ある程度の展望は得られる。ただ、尾根の出っ張りといった感じで、山頂の雰囲気はない。
■コースタイム
粟柄林道県境→60分(50分)→登山口→60分(45分)→大御影山
( )内は、逆コースのコースタイム
②能登又谷林道終点から大御影山へ ■対象:中級コース
美浜町新庄の松屋集落より、能登又谷林道へ入る。林道は舗装されているが、右に大日岳(小御影山)への登山口に続く林道を分ける地点で舗装がきれる。林道は、だんだんと荒れてくるが、そのまま進む。普通車だと、お腹を擦るかもしれない。さらに進むと林道は沢から離れ、右の斜面を登り始め、しばらくで林道は終点になる。ここには、小さな広場があり、車は5台ほど駐車可能である。
ここが登山口であり、「大御影山 2時間半」の標識がある。登山口からは、谷の左岸の杉林の中を登る。すぐ先には、クスノキの大木が迎えてくれる。この辺り、道がはっきりしない所もあるが、テープを見落とさないように、慎重に進む。この先も、県境稜線まで、テープが付けられている。すぐに谷は二俣になるが、右の谷沿いに進む。すぐに道は、谷を渡り、炭焼き釜の跡を通る。右手の谷は、また二俣となっている。この辺りは、きれいな林が広がっている。やがて道は、ジグザグに左手の尾根に登って行く。
登山口から10分ほどで、支尾根に乗る。ここからは、この尾根をまっすぐに登っていくが、杉の巨木の混じる広葉樹の尾根であり、気持ちがよい。尾根は、平坦になったり、また、急になったりするが、急な所は、ジグザグに道が付けられている。左手には、常に沢音が聞こえる。
この先も同じような尾根が続くが、途中ブナの大きな木も現れて、楽しみながら登ることができる。さらに登り続けると、下草が現れ、平らな地点に着く。この辺り、道はいろいろな方向に付いているが、テープなどを頼りに、少し左手方向に進むと、やがて県境稜線の道に出る。ここまで、登山口から1時間30分程で着く。
ここから、左手に県境稜線をたどれば、30分弱で大御影山に着く。なお、大御影山から下りにこのコースを使う場合、ここを右に曲がるが、この辺りは、平らで方向を見誤りやすいので、下る尾根をしっかりと確認して、進む必要がある。
■コースタイム
能登又谷林道終点登山口→90分(70分)→県境稜線→30分(20分)→大御影山
( )内は、逆コースのコースタイム
③能登又谷白谷コースから大御影山へ ■対象:中級コース
美浜町新庄の松屋集落から、能登又谷林道に入る。送電線巡視路を使って大日に登る登山口に続く林道の分岐を過ぎ、さらに進む(歩いて20分程)と、大日からの谷(地形図で道の記載のある谷)にかかる橋を渡る。なお、車の場合は、林道分岐の手前の広場に駐車すると良い。その先わずかの所の左側に、白谷登山口の看板があり、そこから谷に下る。この地点は、谷が二股になっている所である。谷に降り、谷を渡る(以前あった橋は消失しているので、水量の多い時は、要注意)と、左手の沢の左岸に向かって道が続いている。この先目印のリボン、テープが結び付けられているが、必ずしも十分でないので、地図を見ながら進んで欲しい。また、倒木が沢に流れ込んできている所もあるので、注意してほしい。何回か、右岸、左岸を沢を渡り、道は左岸(右手)の斜面を登り出す。わずかの登りで、小尾根の上に出て、左手に進む。ここから右手にも踏み跡が続いているので、下ってきた場合は、直進しないように注意が必要である。
尾根は急で、細い尾根のため、ほぼ直登するので、結構きつい。15分程頑張ると、ブナが現れ、また、ユズリハの群落となる。ユズリハを避けるように進むが、道は不明瞭である。下には、ギンリョウソウがたくさん見られた。しばらくでユズリハの群落も終了し、この辺りまで来ると、尾根が広くなり、道もジグザグに登っていくので、少し楽になる。 しばらくの登りで、左手に沢の源頭のような地形が左手に寄ってくる。この辺りまで、登山口から1時間弱である。
ここからは、ブナなどの混じる林の中を、ジグザグに登っていくと、20分程で、平坦地に着く。この辺りには、大きなブナの木が点在し、気持ちの良い休憩場所である。この先も、立派なブナの木があり、目を楽しませてくれる。この辺りも、ギンリョウソウが群生している。しばらくすると、古道のような掘り込まれた道が現れる。この辺りも気持ちの良い所である。やがて、このような道も終わり、下草の生える潅木帯となる。冬の気候が厳しいのか、木が斜めになっている。小ピークの肩から一旦下り、再び登り出すと、しばらくの登りで、カヤの原に着く。ここはいつも風が強いのか、大きな木が生えていないため、展望はすこぶる良い。若狭湾、琵琶湖方面が見渡され、目の前に、これから行く反射板、そしてその左に、大御影山の山頂が見える。カヤの原からさらに10分ほど、潅木の中を進むと、反射板のすぐ右手の県境稜線に着く。そこから、左に、大御影山の山頂はすぐである。
下山ルートは、いろいろ考えられるが、1台の車であれば、能登又谷林道の大日への林道分岐点に車を置いておき、大御影山から大日へと周回するコースが良い。(2017.06.18最終踏査、一部修正))
■コースタイム
能登又谷林道白谷登山口→150分(100分)→県境稜線→1分(1分)→大御影山
( )内は、逆コースのコースタイム
④大御影山から大日を経て新庄への縦走 ■対象:中級コース
大御影山の山頂から県境尾根を、反射板の方へ向かう。左手にある反射板を見送り、直進する。道ははっきりしており、すぐに右手に白谷コースへの分岐がある。この後も先程までと同じような古い道が続き、ジグザグにどんどん下って行く。20分程で右に能登又谷林道終点へ続く道が分岐するが、もしこの道を下るのであれば、慎重に探しながら歩かないと見落としやすい。この先も、県境尾根を外さないように西の方向に進む。道もしっかりしており、迷う所はない。780mのピークの次の鞍部を過ぎ、少し登ると、ブナのとても美しい林となる。ブナの大木を眺めながら登っていくが、登りが急になってくると、しばらくで850mのピークに着く。ここは、三重嶽への道が分岐する所であり、標識も設置されている。ここまで、山頂から1時間位である。
850mピークを過ぎた辺りで尾根は右に曲がるが、この辺りは少し平坦になっている。その後、道は下って行くが、すぐにブナ林に入る。この辺りも美しい林である。下りきった所から登り始めると、またブナ林に入る。この辺りのブナ林は広大であり、大日(750.9m)近くまで続く。周囲4mを越えるブナの大木もあり、素晴らしい所である。若狭には珍しく広範囲に広がるこの辺りのブナ林は、是非後世に伝えたいものである。
ブナ林の中、緩やかな登り下りを繰り返すと、784mのピークに着く。「火の用心」の標識があり、左に送電線巡視路を分ける。左へ入る道は、「能登郷」へと続く道でもある。さらに300m程先でも、左に巡視路を分ける。「火の用心」の標識は、送電線巡視路用の標識として使われており、これからたびたびお目にかかる。この辺りもまだブナ林が続くが、隣接する2ヶ所の送電線鉄塔を通過する辺りでブナ林は終わる。鉄塔を過ぎればすぐに大日に着く。三角点があり、今は、大日の立派な標柱(文字は消えている)が設置されている。以前あったブナの大木が、送電線工事の関係か、多数切り倒されている。なお、ここまで、850mピークから約45分の道のりである。
大日からは送電線巡視路を使って下山することになる。ピークをそのまま直進すると、すぐに道は二俣に分かれる。左の道は、能登越を経て三十三間山に向かう道なので、ここは右に進む。ここからは、これまでの自然らしさがなくなり、人の手の加えられた世界となる。左手に杉の植林が現れ、急な下りとなる。すぐに鉄塔があり、右方向に別の巡視路を分岐する。
ここからは頭上にある送電線に沿って下ることとし、直進する。やがて杉林を抜け、次々と鉄塔の下を通過する。3基の鉄塔を通過した所で、道は急に下りだし、すぐに左手に巡視路を分けるので、ここを左に入る。ここは、間違いやすいので、このコース中最も注意が必要である。
送電線が2本平行して走っているが、北側が「甲」、南側が「乙」と名付けられているようである。これまで通過してきたのは、「甲」側の鉄塔で、直進すると「乙」側の鉄塔に向かうことになる。「乙」側の鉄塔に沿って下ることもできるが、ここは左側の道を選び、「甲」側の鉄塔に沿って下ることにする。
杉林と雑木林が交互に現れる中、尾根をまっすぐ下ったり、左へトラバースしながら、鉄塔を追いかけるように道が付けられている。先程の分岐からさらに2基の鉄塔を過ぎ、さらに進むと、沢を渡り、次の鉄塔に着くが、道はこの鉄塔の手前で、右の谷に下っていく。何回か沢を渡りながら沢沿いに下って行くと、右に「乙」側鉄塔への巡視路を分け、すぐに今度は左に「甲」側鉄塔への巡視路を分ける。そのまま直進すると、しばらくで林道に出る。なお、林道に出る手前で、道の崩落があり、一旦、右の沢を渡り、再び、沢を渡って元に戻る迂回路が付けられているので、注意が必要である。林道に出た所には、「火の用心」の標識があり、送電線巡視路の入り口となっている。大日岳からここまで1時間30分位かかる。
林道を約15分歩くと、能登又谷林道に出て、ここを左折し、さらに25分程林道を下ると、松屋の集落に着く。なお、事前に車を配車しておくとすれば、能登又谷林道からの分岐付近、又は登り口(送電線巡視路入り口)手前の道路脇である。(2020.06.06最終踏査、一部修正)
■コースタイム
大御影山→60分(75分)→850mピーク→45分(45分)→大日(750.9m)→90分(120分)→林道(巡視路入口)→40分(50分)→松屋(新庄)
( )内は、逆コースのコースタイム
⑤能登野から近江坂経由で大御影山へ(参考記録) ■対象:上級コース
近江坂は、若狭町の能登野から、大御影山を経て、滋賀県高島市(今津)の酒波寺まで続く峠道である。このうち、能登野から、大御影山手前のP784までを紹介する。
国道27号線を小浜方面から敦賀に向かい、倉見峠を越えた若狭町倉見集落手前で、バイパス道・三十三街道に入る。三十三間山登山口を過ぎ、約1km行ったところにある能登野林道に入る。林道は通行止めとなっているので、バイパス道沿いの邪魔にならない所(林道入り口から100m程先(敦賀側)左手に空き地あり)に駐車する。
能登野林道に入り、30分程で水道取入れ口があり、さらに15分程で、林道終点となる。ここは、沢の二股となっており、間の尾根に登山道がある。
しばらくは、道が少しわかりにくいが、10分程もすると、深くえぐれた古道となる。その先は、しっかりした道がジグザグに尾根を登っていく。このあたりは、植林はなく、広葉樹林の気持ちよい尾根である。1時間弱で、以前道が右にトラバースしていた地点に着く。この道は、途中の沢2箇所で崩れており、通行不能なので、そのまま尾根を直進する。そのまま稜線に出て、右に10分ほど下っていくと、能登越の峠に着く。峠付近は、風が強いのか、木は生えておらず、土が露出している。以前は、かやの原であったが、温暖化の影響か、鹿の食害か、無残な状況である。展望はすこぶる良く、西側には、三方町方面の視界が広がっており、目を東側に転じれば、三重嶽やこれから向かう大御影山方面の尾根の展望が広がる。
能登越から稜線を南に行けば、三十三間山、北に行けば大日岳を経て、大御影山方面に向かう。
これから目指す能登郷は、東側の谷筋を下っていく。峠から東側を見ると、谷筋に下っていく道がすぐに見つかる。この道を下っていくと、しばらくはしっかりとした道が続くが、その先道は消失するので、その先は谷筋を強引に下っていく。細い谷なので、さほどの苦労もなく下っていくことが出来る。30分程下ると、突然林道に出る。福井県と滋賀県の県境にある国道303号線沿いの天増川集落から続く天増川林道で、この先は大日岳手前にある無線中継所跡地に続いている。
林道に出たら、少し林道を少し下る。左手に湿原が見えてきたら、降りやすい所から湿原に下りる。ここは昔、能登郷という集落のあった地点で、東側の山裾には炭焼きがまの跡や石積みなどが残っている。
ここからは、東側の尾根にある送電線鉄塔を目指して登ることになる。能登郷跡付近から東を見ると、左右2本の尾根が見えるが、左の尾根を目指して取り付く。尾根は疎林で、さほど歩き難くはない。獣道程度の踏み跡もあり、順調に高度を稼ぐが、尾根に取り付いて約30分で、ユズリハの群生に道を阻まれる。歩きやすいところを選んで進むと、しばらくで送電線鉄塔に着く。その先は、しっかりした巡視路があり、すぐに右から別の送電線巡視路と合流する。すぐにもう1本の鉄塔を経由して、ブナの綺麗な尾根を進むと、大日岳から大御影山へ続く主稜線線上のP784付近に着く。
この先は、右に行けば、大御影山を経て、粟柄谷林道(河内谷林道)に出ることが出来る。この区間については、前述の①、②を参照されたい。なお、林道から先は、今津町のビラデストを経由して、酒波寺まで近江坂の道は続いている。林道から先については、他のガイドブックを参照されたい。(2016.8.31再踏査)
■コースタイム(参考記録)
バイパスの林道分岐→45分→水道取入口→15分→二俣→90分→能登越→30分→林道→10分→能登郷跡→45分→送電線鉄塔→15分→P784→105分→大御影山→45分→粟柄林道→120分→ビラテスト今津