八ヶ峰は、福井県と京都府の県境にある山である。山頂からは、山城、河内、摂津、近江、越前、丹波、丹後、若狭の八ヶ国が展望できるとされ、これが山名の由来とされている。最近は、山頂周囲の木が大きくなってきて、少し展望を悪くしているものの、若狭湾や周囲の山々の展望を楽しむことができる。また、五波峠から山頂にかけて、また知井坂周辺にはブナ林があり、山頂だけでなく途中の道も楽しむことができる。
八ヶ峰の西と東には、それぞれ知井坂と五波峠があり、昔京都と若狭を結ぶ重要な街道が通っていた。この辺りには、若狭の海の幸を京都に運ぶための生活道路が多くあった。その内でも、知井坂は往来の多かった峠道の一つとされており、福井県の堂本と京都府の八原を結んでいる。この坂は、別名ちさか(血坂)とも呼ばれ、険しく越えるのに血の涙を流すほど難渋したといわれているが、歩いてみると実際はさほどの難所はない。若狭越えの峠道も時の経過と共に廃道化しつつあるが、知井坂道は比較的良く昔の道が残っている。以前、途中にある森林レクリエーションゾーンから知井坂まで、作業道が作られ、峠道の風情が失われていたが、時間とともに、昔のの雰囲気に戻りつつある。
一方、五波峠は、福井県側の染ヶ谷から京都府の田歌へ越える峠であり、ここも昔の生活道路であったが、知井坂に比べれば脇道的な存在であったようである。現在、染ヶ谷から峰越林道が五波峠を通り京都側に抜けており、本来の峠道は廃道化している。
八ヶ峰への登山口の一つである染ヶ谷には、八ヶ峰家族旅行村があり、川で釣りをしたり、キャンプを楽しんだりすることができ、春から秋にかけて家族連れでにぎわっている。
八ヶ峰への福井県側からの登山コースとしては、以下の4コースが考えられる。
①染ヶ谷の八ヶ峰家族旅行村からのコース
②堂本の石碑からのコース
③堂本の少し先から送電線巡視路を利用するコース
④五波峠からのコース
これらの内①のコースを往復するのが最も手頃で、本書でもメインルートとして紹介する。②のコースは本来の知井坂をたどるコースで、少し行程は長いが、知井坂の名残りを楽しむことができ、是非一度は訪れてほしいコースである。③のコースは、②のサブルート的存在ではあるが、比較的短時間に知井坂の雰囲気と周辺のブナ林を楽しみつつ山頂に至ることができる。なお、②及び③のコースの途中にある森林レクリエーションゾーンまで、道はあまり良くないが、小松谷林道(この林道は、五波峠まで延びているが、五波峠からの入口は閉鎖されている)が延びており、足腰の弱い人がいる場合は利用できる。ただし、林道は通行止めになることが多いので、事前に確認して億必要がある。④のコースは、稜線まで車で上がってしまうので、標高差は少ない。ただし、いくつもピークを越えるので、思ったよりはしんどいが、途中のブナ林を楽しむことができる良いコースである。
本書では、これらの4コースを全て紹介するので、自分に合ったコースを、またそれぞれのコースを組み合わせながら八ヶ峰を楽しんでほしい。(2021.12.12一部修正)
①染ヶ谷から八ヶ峰へ ■対象:家族向けハイキングコース
小浜より車で国道162号線を名田庄方面に向かい、小倉トンネル手前の「名田庄村あきない館」の所を左折する。堂本集落を通り、染ヶ谷川に沿ってさらに車を進めると、小浜から約40分で、「八ヶ峰家族旅行村」に着く。ここには、キャンプ場が整備されており、また、ます釣りなどの遊びも楽しめることから、シーズン中は多くの家族連れでにぎわっている。
登山口は、この旅行村に入って最初の右手の建物「展示実習館」の左側にある。「八ヶ峰登山口」の小さな看板があり、細い作業道が右手に上っているので、この道を車で登って行く。100m程行くと、登山者専用駐車場の標識のある広場に出るので、ここに車を止める。5台位は十分に駐車可能である。
身支度を整えたら、この作業道をさらに歩いて登って行くが、約400mも歩くと、左手に砂防工事用の道を分け、すぐ左に以前使っていた登山口がある。現在は、この作業道をそのまま登っていくと、林道に出る。
この林道は、小松谷林道が五波峠まで延びているものである。林道を横断した所の林道の法面に道が付けられており、この道を進む。やがて赤松の点在する広葉樹林帯となり、気持ちの良い尾根歩きとなる。木々の間から五波峠、杉尾坂方面が望めるようになり、登山口から約40分で、尾根はなだらかになり、広くなってくる。この辺りは休憩に良い所である。少し先には、造林小屋の跡(現在は、ほとんど残っていない)があり、周りはブナなどの広葉樹林帯となっている。
やがて道は、尾根の左側に回り込むようになり、突然熊笹が現れる。少しの急登の後、尾根の右側に回り込むように進むと、五波峠からの道と合流する。ここまで登山口から約1時間の行程である。左に行けば五波峠、右に行けば八ヶ峰である。分岐付近は、広場となっており、熊笹とブナの気持ちの良い所である。
この分岐からは尾根が広くなっており、少し道がわかり難いかもしれない。すぐに直線の急登となり、いくつかのピークを越えて行くと、先ほどの分岐から20分程で八ヶ峰山頂に着く。 二等三角点のある山頂は広場となっており、昼食の場所に良い。周囲に点在する松が少し展望を邪魔しているが、「八ヶ国見渡せる」という山名の由来の通り360度周囲の山並みが見渡せる。 (最終調査:2017.6.23)
■コースタイム
駐車場(八ヶ峰家族旅行村)→10分(5分)→登山口→40分(30分)→造林小屋跡→20分(15分)→五波峠分岐→20分(15分)→八ヶ峰山頂
( )内は、逆コースのコースタイム
②堂本から八ヶ峰へ ■対象:中級コース
小浜方面から国道162号線を「名田庄村あきない館」の所で左折し、八ヶ峰家族旅行村に延びる県道224号線を進む。白い小さな橋を渡ると、右手に「森脇保君功労記念碑」と彫られた石碑が立っている。ここが知井坂への登山口である。
登山口では、ツバキが迎えてくれ、深くそして広いS字状の道が続いている。登っていくと、右手から槇谷川、左手から堂本川のせせらぎを聞くことができる。登り始めて20分位で、モミの大木に出会う。木の根元でまずは休憩しよう。
松林が続いた後は、ヒノキの低木帯の所で視界が明るくなる。登山口から50分位の距離である。再び古いがしっかりした尾根伝いの道を進んで行くと、平坦な広葉樹林帯に到達する。分岐の標識があり、染ヶ谷の手前から登って来る送電線巡視路コースとの合流点である。ここまでは登山口から70分程の距離である。木陰になっているが、明るい所なのでゆっくり休みを取りたい。
合流点から15分程で、鉄塔を目にする。この辺りの頭上に高い木はない。鉄塔から25分程の所で、土肌が見えたかと思うと広い林道を眼の前にする。前方に松の大木が、左に3本、右に2本立っている。その大木の間の、一部セメントで固められた道を10分ばかり歩くと、「森林レクレーションゾーン案内図」の看板の所に着く。
この看板の所からは道が二つに分かれている。右の道は、知井坂を経由して八ヶ峰に登るコースであり、左の道は直接八ヶ峰に至るコースである。頂上までは、知井坂経由で約1時間、直接登った場合約30分の道のりである。知井坂は、途中が林道として整備され、昔の面影は薄くなっているが、昔の峠道を辿るコースであり、時間が許せば知井坂経由のコースを選んでほしい。ここでは両方のコースを紹介しておく。
○知井坂コース
この看板の所から、右の道を進み、知井坂へ向かう。道は尾根の右側を巻くように進み、杉の植林帯を抜けて少し先の左手に、「八ヶ峰0.6km」の標識がある。知井坂を経由せず八ヶ峰に至る道のようであるが、はっきりしない。
この標識を無視して進むと再び杉の植林帯が現れ、それを抜けると送電線鉄塔に出る。道は林道として整備されたため、昔の峠道の面影は少なくなっている。次の鉄塔の横を通りさらに進むと、小さな沢が横切り、そこに四角い石の手洗鉢がある。この辺りは、きれいな広葉樹の林で、大きな古木などもあって、このコース中最も気持ちの良い所である。ただし、林の中が伐採されており、以前のような自然さは失われている。
やがて、左手に「八ヶ峰」の標識があるが、直進すれば知井坂への道である。ここまで、案内図の所から約40分の道のりである。知井坂を先に訪れることとし、直進する。5分程で知井坂の標識のある所に着く。そこの左手の小高い所には、お地蔵さんと石塔が祀られている。この辺りは、以前は深くえぐられた峠道が静かなたたずまいを残していた所であるが、林道整備により明るくなりすぎてしまっている。林道はこの先も尾根筋に続いているが、京都府美山町の八原へ行く道は、この峠を過ぎてすぐに左手に下っている。
知井坂からは、元来た道を引き返し、八ヶ峰に向かう。先ほどの標識の所から八ヶ峰方面に進むと、送電線鉄塔の下をくぐり、松林の中、木の階段の最後の急登を過ぎれば山頂である。知井坂からは約15分、案内図の所からは約1時間の道のりである。
○直接登頂コース
「森林レクレーションゾーン案内図」の看板の左手に、「八ヶ峰1K」の標識があるので、左手方向に進む。しばらくは平坦な道であるが、すぐに急登となる。道の一部には丸太の埋め込みがしてある。
15分ばかりで、道は再び平坦になるが、それも長くはない。丸太の埋め込まれた急な登りを進んで行くと、やがて低木帯となり、一気に頂上に辿り着く。看板の所からは30分程の距離であり、知井坂コースの半分の所要時間で頂上に達することができる。
■コースタイム
登山口(石碑)→70分(50分)→ 送電線巡視路コース合流点→40分(25分)→小松谷林道合流点→10分(5分)→森林レクレーションゾーン案内看板
(知井坂コース)
案内看板→45分(35分)→知井坂→15分(10分)→ 八ヶ峰山頂
(直接登頂コース)
案内看板→30分(20分)→八ヶ峰山頂
( )内は、逆コースのコースタイム
③送電線巡視路から八ヶ峰へ ■対象:中級コース
名田庄小倉にある、あきない館の前の県道224号線を染ヶ谷川に沿って車を進めると、あきない館の前から15分位の所で、前方上空に送電線が見えてくるが、注意して進むと右手に旧道があるので、ここに車を止めて旧道へ入る。歩き始めて2、3分、送電線の直下で、右側に注意していると、登山口の標識を見ることができる。
登山口からは杉林の中の急坂をジグザグに登って行くと、やがて雑木林の中の登りとなり、約20分で554の鉄塔に出る。ここまでの道は、急坂で滑りやすいので、注意して登って欲しい。鉄塔から、さらに雑木林の中を、所々現れるプラスチックの階段を利用しながら、20分位登ると、尾根上に出る。
窪んだ感じのこの場所は、②の石碑から登るコースとの合流点である。ここには分岐の標識が建っている。
この先は、②の石碑からのコースの案内を読んでほしいが、知井坂経由で約1時間50分、直接登る場合、約1時間20分で八ヶ峰の山頂に着く。
(最終踏査:2021.12.11)
■コースタイム
登山口→20分(15分)→送電線鉄塔→20分(15分)→石碑コースとの合流点
( )内は、逆コースのコースタイム
④五波峠から八ヶ峰へ ■対象:家族向けハイキングコース
①のコースの登山口である染ヶ谷のキャンプ場を過ぎ、そのまま車で林道を進む。林道は舗装されており、ぐんぐん高度を上げていき、約20分で京都府との県境になる五波峠に着く。峠には大きな石碑が立っており、車を止める充分なスペースがある。
峠からは、右手の山道に入って行く。最初は、杉の植林帯の中を進むが、植林帯を抜けるとブナ、ミズナラなどの自然林となる。稜線伝いの道は、ゆるいアップダウンを繰り返しながら進んで行く。稜線上からは、あまり展望は望めないが、ブナの原生林が素晴らしく、森林浴を楽しみながら進む。
やがて、八ヶ峰が前方に大きく見えてくるようになると、道は一旦大きく下りだす。下りきった所で、右から来る染ヶ谷からの道と合流するが、五波峠からここまで約1時間の道のりである。合流点はブナ林のとてもきれいな場所で、小さな広場のようになっているので是非休憩したい場所である。
この先は、①の染ヶ谷コースの案内を読んでほしいが、約20分で八ヶ峰の山頂に着く。 (最終調査:2017.6.23)
■コースタイム
登山口(五波峠)→60分(45分)→染ヶ谷コースとの合流点
( )内は、逆コースのコースタイム